大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和39年(合わ)204号 判決

被告人 柳恒治

大一四・三・一生 造花業手伝

主文

被告人を

判示第一、第二の罪につき懲役六月に

判示第三、第四の罪につき懲役七月に

各処する。

但し本裁判確定の日から三年間右各刑の執行を猶予する。

押収にかかる野沢重明名義の自動車運転免許証(昭和三九年押第九七四号の一)の偽造部分はこれを没収し、黒皮製二つ折免許証入一個(同号の三)はこれを被害者野沢重明に還付する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は造花業柳徳重の長男として埼玉県深谷市に生まれ、高等小学校を卒業して石川島航空株式会社に勤めたが終戦後これを退職し、爾来家業を手伝つたり、ペンキ屋をはじめたり等したが、昭和三八年頃から内妻の兄にあたる東京都江東区亀戸居住の造花業門井幸雄方の手伝いをしているものであるが、

第一  昭和三七年一一月末日頃東京都墨田区業平橋五丁目都電平間橋停留所附近所在の公衆電話ボツクス内において、野沢重明がその頃遺失した同人所有の自動車運転免許証在中の黒皮製二つ折免許証入一個(昭和三九年押第九七四号の三)を拾得しながら、所定の届内をしないでほしいままにこれを自己に着服し、もつて遺失物を横領し、

第二  右同人名義の大型自動車、普通自動車、自動三輪車の各第一種免許の併記された右免許証を利用して自己に対する右各免許証を偽造しようと企て、行使の目的をもつてほしいままに、昭和三八年二月三日頃肩書住居の自室において、東京都公安委員会の作成にかかりその公印のある右免許証の写真欄に貼付してあつた野沢重明の写真を剥離し、その跡に先に自己が埼玉県公安委員会から交付を受けていた第二種原動機付自転車運転免許証(同号の二)から剥離した自己の写真を貼付し、更に同年九月初頃右同所において右領得にかかる免許証の生年月日欄の昭和16年の「6」の文字を黒インクで「0」と書き替え、もつて被告人を野沢重明とした東京都公安委員会作成名義の大型自動車、普通自動車、自動三輪車の各第一種免許の併記された自動車運転免許証(同号の一)の偽造をとげ、

第三  昭和三九年四月一一日午後三時二五分頃同都台東区浅草雷門一丁目三一番地先路上において、警視庁浅草警察署勤務司法巡査阿部利春より運転免許証の提示を求められた際、同巡査に対し右偽造にかかる三ヶの免許の併記された免許証を真正に作成されたものの如く装い提示し、もつて右偽造運転免許証を一括行使し、

第四  公安委員会の運転免許を受けないで、右同日同所において普通貨物自動車を運転し

たものである。

(証拠の標目)(略)

なお、弁護人は判示第一の事実につき、当該運転免許証は当時野沢重明に対する運転免許が取消されていたためすでに失効していたものであり、また免許証入も古くなつていて無価値というべく、従つていずれも財物にはあたらないから遺失物横領罪は成立しない旨主張するが、本件免許証の如くこれが他人の支配に属するときは悪用されるおそれがあり、自己の手許に保存する利益を有するときは、仮令免許失効後といえどもこれを財物となすべきことは従来判例の示すところであるのみならず、殊に本件においては野沢重明が運転免許取消の処分を受けたのは被告人の第一の犯行より約一年後の昭和三八年一一月八日であることが認められ、本件犯行当時は右免許証は有効のものであつたのであり、右主張はその前提において誤つているというべきである。更に免許証入についても押収にかかるその現物を検するに未だ十分なる使用価値を有し、法律上保護に値する財物というを妨げないものと認められる。よつて右主張は採用できない。

(判示第一、第二の各罪と刑法第四五条後段の併合罪の関係にある前科)

被告人は昭和三八年九月二六日墨田簡易裁判所において、略式手続命令により道路交通法違反罪により罰金二〇〇〇円に処せられ、右裁判は同年一〇月一一日確定したもので、この事実は被告人の当公判廷における供述並びに墨田区検察庁作成名義の前科照会回答書によりこれを認める。

(法令の適用)

法律に照らすと、被告人の判示第一の所為は刑法第二五四条、罰金等臨時措置法第三条に、第二の所為は各刑法第一五五条第一項に、第三の所為は各同法第一五八条第一項、第一五五条第一項に、第四の所為は道路交通法第一一八条第一項第一号、第六四条に各該当するところ、第一、第四の罪につき各懲役刑を選択し、第二の各偽造罪、第三の各行使罪はそれぞれ同法第五四条第一項前段の一所為数法の関係にあるから同法第一〇条に従い犯情重き大型自動車第一種運転免許証の偽造又は行使罪の刑に従い、第一、第二の罪と前示の確定裁判を経たる罪とは同法第四五条後段の併合罪の関係にあるから同法第五〇条に則り確定裁判を経ざる第一、第二の罪につき更に裁判を為すべく、右両罪並びに第三、第四の罪はそれぞれ相互に同法第四五条前段の併合罪であるから同法第四七条本文但書、第一〇条を適用し第一、第二の罪については重き第二の罪に、第三、第四の罪については重き第三の罪に各法定の加重をなし、更に犯情に鑑みいづれも同法第六六条、第七一条、第六八条第三号に則り夫々酌量減軽をなした刑期範囲内で被告人を第一、第二の罪につき懲役六月に、第三、第四の罪につき懲役七月に各処し、同法第二五条第一項を適用して本裁判確定の日から三年間右各刑の執行を猶予し、押収にかかる野沢重明名義の自動車運転免許証(昭和三九年押第九七四号の一)の偽造部分は第三の犯行の組成物件で何人の所有をも許さないものであるから同法第一九条第一項第一号、第二項に従いこれを没収し、黒皮製二つ折免許証入(同号の三)は第一の犯行の賍物で被害者野沢重明に還付すべき理由が明らかであるから刑事訴訟法第三四七条第一項に則りこれを還付し、同法第一八一条第一項本文を適用して訴訟費用は被告人の負担とする。

なお検察官は本件の如く牽連犯の手段たる行為と結果たる行為の中間に確定裁判の介在するときも、これにより二罪に分断されることはないとの主張を前提に、判示第一の罪のみが前記確定裁判と刑法第四五条後段の併合罪にあり、第二の罪は第三の罪と一罪となり、これと第四の罪がその後の併合罪となるものとなし、この両者につき各別の求刑をなしたのであるが、およそ牽連犯における手段たる行為と結果たる行為とは元来各別の構成要件に該当し、各別個の犯罪を構成し、本質的には一罪たるの性質を有するものではないところ、単に科刑上これを一罪に準じて取扱うように定められているにすぎないものであつて、本来一個の構成要件に該当し、本質的に一罪たるの性質を有する継続犯、営業犯等とはその類型を異にするものである。従つて継続犯に関し、確定裁判の介在によつて二罪に分断すべきではない旨判示した最高裁判所昭和三五年二月九日判決(刑集一四巻一号八二頁)の趣旨を牽連犯に適用するのは正当でない。

しかして右の如き牽連犯の本質に徴すれば、その中間に確定裁判の介在するときはもはやこれを一罪に準じてみることは不適当で、確定裁判により分断されるにいたると解するのが正当であるから、前記の如き適条をなした次第である。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 津田正良 大前邦道 奥村誠)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例